焼きなり団子

クロワッサンたい焼きはなぜ団子になったのか?焼きなり団子誕生秘話

「うーん、やっぱりクロワッサンたい焼きは難しいなぁ……」

4年前、私たちはある新商品の開発を行っていました。

その新商品とは「クロワッサンたい焼き」。

最近でこそ、そこそこメジャーな存在になってきているクロワッサンたい焼きですが、2014年当時はまだそこまでの知名度はありませんでした。

きっかけはある商社さんが持ち込んだ「新素材」。

「社長、今度おもしろい新商品が出るんですよ」

この商社さんは地元でもそこそこの大手の会社さん。

定期的に新商品を持ってきては「なにか作れませんかねぇ」と営業に熱心な会社です。しかもこのときの担当者、佐竹さんは提案が好きなのか、いつも奇抜な素材を持ってきます。

お菓子屋さんと言うと、職人芸でまったくの素材、例えば小麦や小豆、砂糖といった一次原料から魔法のように作品を作り上げてるイメージがありますが、さすがにそれをすべての商品でやるには人手もコストも掛かってしまいます。

それに自社では作れないような「素材」もあるのです。

まさに今回その担当者さんが持ち込んだのは長寿庵では作れない「新素材」、クロワッサンシートでした。

皆さんご存知のようにクロワッサンというのはパイ生地にバターを折り込みながら層を重ねて丸めて焼きます。

パン生地が何層にも重なってその間から染み出してくるバターが実に旨い。カリカリサクサクなのにフワッともしている。パンの中でもクロワッサンが大好きな人って多いですよね。

でもそれを業務用としてある程度の数を作ろうとすると急にハードルが上がるんです。

人の手によらずクロワッサン生地を作ろうとすると機械だけで1億円……

もちろんその機械を入れるための工場も必要ですし、生地をストックしておく冷凍庫も必要です。全部合わせたら3億円くらいかかるでしょうか……

とてもじゃないけど長寿庵では自社生産できません。

だからこそ、佐竹さんの提案は魅力的でした。自社でもクロワッサン生地を使った新商品を作れる。パリパリサクサクの生地で何を作ろう?

社長が最初に取り組んだのは「クロワッサンたい焼き」。担当の佐竹さんが持ってきた時に提案していった商材でもあります。

2014年当時、長寿庵は取引のあった高速道路サービスエリアから新商品の提案を求められていました。そこにクロワッサンたい焼きをぶつけようという話になったのです。

長寿庵本社工場の一角に、1度に12匹のたい焼きが焼けるテスト台を設け、早速テストします。

1回め。冷凍のクロワッサンシートがあっという間に溶けてしまい、ぼろぼろになって失敗。

2回め。一回目の反省を活かし、手際よく配置してあんこを入れていきます。しかし今度は生地が冷凍のままでうまくあんこがハマってくれません。これも失敗。

3回目。なんとかいい塩梅でクロワッサンシートを解凍し、焼いていきます。餡もきちんと収まりこれは成功したのではないか……? そんな空気もありました。しかし、火加減が難しく焦げてしまい失敗。

こんな調子でなんどもテストを繰り返し、やっとなんとか販売できるレベルに到達したんですが……

このクロワッサンたい焼き、一匹作るのに12分と、普通のたい焼きに比べて時間が倍ほどかかるのです。

テストした時は12分間で5匹が限界。1時間に25匹しか焼けない計算になります。さらにクロワッサンシートの準備やその他の作業を考えると実際はその半分まで下がります。

高速道路の店舗は間欠泉です。しばらく暇だったのに急にどっとお客様がいらっしゃる。これは観光バスでお客様が大量に来店頂くのを想像してもらえるとわかるかと思います。

だからこそ、ある程度すばやく提供できる商品でなければならない。1時間に最大でも25匹しか焼けない商品では意味がないのです。

こうして僕らはクロワッサンたい焼きを諦めることになりました。

画像はイメージです

 

ですが、社長の足立はクロワッサンシートの可能性を諦めてはいませんでした。確かに扱いが難しく、提供に時間が掛かるからあらゆる商品に合うというわけではない。でもなにか、なにか作れるはずだ。

社長は毎日のように「クロワッサンたい焼きみたいなの作りたい作りたい」とぼやいていました。だから僕の中にもなにか引っかかるものがあったのかも知れません。

ちょうどうちの会計士の兄が福岡から帰ってきており、焼き菓子を作るためになけなしのお金で買った中古の「コンベクションオーブン」について打ち合わせをしていました。

兄「おまえさぁ、少しは物を考えてから道具買えよ。完全に資産が寝てしまっていて金がもったいないだろ」

僕「いや、そうは言っても焼き菓子のラインナップはいずれ考えておきたいんだよ。思いついた時にすぐテストできる環境は大事だろ」

兄「そうは言ってもなんとかならんか。例えばあの大手のパイまんじゅうみたいなもの……」

僕「それだ!」

兄から言われた瞬間ひらめきました。

そうだ、クロワッサンシートでいきなり団子を作ってはどうだろう!?

僕はいつも「いきなり団子」に代わる新商品を作りたいと考えていました。

そのためにコンベクションオーブンを中古で買っていたのです。

いきなり団子はたしかに美味しい。

特に長寿庵のいきなり団子は多くのお客様に支持されている。

カタログ通販やネット通販を通じて全国のお客様のお手元にお届けできている長寿庵の看板商品です。

いきなり団子はみんなが知っているので、広告する手間が省けるという利点もあります。

長寿庵のサイトに来ていただける方々の8割以上が「いきなり団子」で検索して来ていただいています。

それに、いきなり団子は多くの同業者が作っています。

だから、お客様に選択肢が広がり、選択肢が広がった結果、多くのお客様に「いきなり団子」自体の支持が広がり、深い浸透を見せることができたのです。

だけど。

みんなが作ってる、誰が作ってもいい商品。

それだけ競合が多いことの裏返しでもあります。僕はいつもこの問題に頭を悩ませていました。

多くの小売業者さん、卸商社さんが「いきなり団子を扱わせて欲しい」、「評判がよく実際に美味しい長寿庵のいきなり団子を扱いたい」と言ってきてくれます。

大変ありがたいです。

しかし、しばらくすると「他の業者さんがもっと安く出せるので安くなりませんか」とか「他の業者さんが安いのでそっちにします」など言われてしまうのです。

ひどいところになると「ダゴ(いきなり団子)なんちゃどこでん同じだろが。安ぅせんなら取引ば切っぞ」と露骨に言ってくる取引先もいました。

悔しくてしょうがありませんでした。

品質でも安全性でも、取引開始後のフォローアップでも長寿庵は他社に一切引けを取らない。

なのに「いきなり団子」と一括りにされるとここまでコケにされなくてはいけないのかと。

喉から手が出るほどいきなり団子に代わる看板商品が欲しい。

その看板商品に「クロワッサン生地」は生きてくる。

「クロワッサンいきなり団子」の開発は製造部の清水が担当しました。

彼女は勤続15年以上のベテランです。

長寿庵でずっといきなり団子を作ってきました。

いきなり団子造りで彼女の右に出るものはおそらく熊本中探してもいないでしょう。

クロワッサンたい焼きの失敗を考えて、かなり苦戦させられることが予想されました。冷凍クロワッサンシートの取扱から芋の大きさ、あんこの柔らかさといきなり団子製造装置との相性、そしてコンベクションオーブンの温度の扱い。

何と言っても長寿庵にとっては久しぶりの焼き菓子になるのです。

かつては店頭で回転焼きを焼いていたこともありますが、工場で大規模に焼き菓子を生産するのははじめての試みです。

試作の指示を出して3日後。

「常務、できました」

清水はなんとあっという間に試作品を作ってみせたのです。

さすがベテランといいたいところですが、あまりの開発期間の短さに雑な仕上がりになってるのではないかと疑いました。

しかし、そこに出てきた「クロワッサンいきなり団子」はほぼ完成されていたのです。

「クロワッサン生地の程よく焼けた生地、膨らみ、香ばしい匂い。見た目は完璧。ですが味はどうですかね……」

大人の握りこぶしほどの大きさの「クロワッサンいきなり団子」を手にとって一口ガブリ。

「……これは美味い」

僕はこの商品が長寿庵の新たな看板商品になることを確信しました。

それほどに清水が作ってきた試作品は完成度が高かったのです。

もちろんまったく調整しなかったわけではありません。

「クロワッサン生地はバターが強くて、中のあんこと芋が負けてますね。芋を焼き芋に適して甘みの強い紅はるかにしましょう。あと、生地の方に見た目と甘さのためにザラメを振って」

試作の指示を出して1ヶ月後、ついに「クロワッサンいきなり団子」は完成したのです。

僕はこの新商品にキャッチーなタイトルを付けなければいけないなと感じていました。そうしなければ名前が商品に負けてしまう。

商品が名前に負けてしまうことはよく聞くけど、その逆ってあるの?と思うかも知れませんが、「クロワッサンいきなり団子」に関しては間違いなく「名前が商品に負けてしまう」例でした。

でも、すぐに思いつきましたね。これしか無いって。

「焼きなり団子」

えっ、これってパンでしょ?団子じゃないよね?

そうなんです。商標を取るときにも特許庁の担当官からそう言われてしまいました。

でもどう見たってこの商品は「焼きなり団子」以外ないんです僕の中では。

最初のキャッチコピーは「いきなり団子、焼いちゃいました!」

とにかく遊び心満載の商品として売り出したかったのです。

価格の設定は1個250円。長寿庵の販売価格帯としては一番高い部類に入ります。

当然販売も苦戦しました。

でも、この商品は、この値段の価値がある。

値段を下げることは商品に対して失礼だ。

そう信じて値下げすることは考えませんでした。

最終的に「焼きなり団子」を世に出すとき、あれだけ「クロワッサンたい焼き作りたい作りたい」と騒いでいた社長ももう何も言わなくなっていました。

誰もがこの商品の価値を認めていたのです。

クロワッサンたい焼きを作り始めてからもう4年。

あっという間でした。販売開始当初、価格の問題や展開の仕方のまずさで苦戦が続きました。

それでも「今日は焼きなり団子なかと?」と言ってくれる常連さんがいてくれたり、「朝1個買ってすごくおいしかったから、家族に買って帰るよ」と言って10個も買って帰ってくれる出張帰りのお客さんなどじわじわとファンが増えていったのです。

そして今年2018年3月17日。

長寿庵熊本駅肥後よかモン市場店がオープン。

オープンから2日後、焼きなり団子は前の店舗の10倍を売り上げることに成功

焼きなり団子は閉店まで3時間を残し売り切れてしまいました。

続く5月のゴールデンウィークには3日連続でこれまでの熊本駅店の売上記録を更新

その立役者も焼きなり団子でした。なぜなら、いきなり団子の売れ行きは去年と変わらなかったから。最高の売上を記録したのはまさに焼きなり団子があったからでした。

売れなかった時期は辛かった。僕の感性は間違っていたのだろうか。やっぱり価格の問題なのか。いやそうではない、陳列の方法が悪いのだ、スタッフの問題もあるかも知れない……

悪いときには悪い思考になってしまう。そういうときが続きました。

しかし、TwitterやInstagramでの焼きなり団子の評判をみると、やっぱり間違ってなかったんです。

新素材を提案してくれた佐竹さん、その新素材の可能性を最後まで信じた父、他人から二度とナメられない新商品が作りたかった僕。そして、僕の考えた新商品を形にし、信じて生産販売を続けた製造スタッフと販売スタッフ。

僕は今、このブログを書きながら、多くの人の思いを載せた焼きなり団子を皆様のお手元にお届けできる喜びを噛み締めています。

僕ら長寿庵関係者の思いが詰まった焼きなり団子。皆様の目でお確かめ下さい。

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