「ハッピバースデートゥーユー」
「ハッピバースデートゥーユー」
「ハッピバースデーディア明弘くーん」
「ハッピバースデー トゥーユー!」
まだ小さかった僕が、真っ白くて丸いケーキに乗った、色とりどりのロウソクを吹き消していきます。
いつの頃だったか、僕の誕生日の光景といえばこんな感じ。
おそらく昭和も終わりの頃に生まれた子供だったら、こういった光景は日本中どこでも見られたのではないでしょうか。
僕の誕生日と言えば、岬鮨という近所の宅配寿司と親父が仕事帰りに買ってくる、真っ白な生クリームの上に真っ赤ないちごが乗った寿屋のバースデーケーキ。
家族経営で両親ともに忙しかったため、家族旅行といったイベントはあまりなかったのですが、誕生日やクリスマスと言ったときには家族で集まってお祝いをしたものです。
その名残からか、いまでも僕は結婚記念日や嫁さんの誕生日、僕の誕生日と言ったイベントでは岬鮨の宅配寿司にトワグリュさんのケーキと決まっています。
特別な日に食べるお菓子というのはやっぱり美味しいですね。
なんてこと無い日に食べるお菓子も美味しいですが、誰かのお祝いや自分へのご褒美といった理由がある時に食べるお菓子というのはまた格別なのです。
お菓子って不思議な存在ですよね。
お菓子は別に食べなくても生きていけます。
むしろ最近では糖分は健康への敵だ!みたいに言われて肩身の狭い思いをしています。
それでも皆さんお菓子が好きですよね。
僕も大好きです。
「食べなければ生きていけない」食材、例えば白いご飯だったり、パンだったり、お肉だったり魚だったり。
そういった食材と違って、お菓子というのは別に食べなくてもいい存在です。
「パンがなかったらケーキを食べればいいじゃない」と言い放って炎上したのはマリー・アントワネットですが、これはケーキがぜいたく品で、パンに事欠くパリの民衆のことがわかってない事を揶揄(やゆ)したことを伝える逸話だそうです。
実際にお菓子を形作る「砂糖」は大変に土地のエネルギーを消費するそうで、サトウキビを植えた畑は1年で本当に痩せてしまうそうです。
そんな砂糖ですから、当初は薬として扱われるほどに貴重な存在でした。
砂糖が一般化するのは本当にここ最近なんですね。それまではマリー・アントワネットのような王侯貴族や大商人しか手に入らないものでした。
そういった歴史の経緯があるからこそ、砂糖をふんだんに使ったお菓子、というのは特別な意味があると、僕は考えています。
現代では街中にあるコンビニでお菓子が買えるので、日常的にお菓子を食べる機会が増えています。
しかし、なにかお祝いの時や自分へのご褒美といった時にそういうお手軽なお菓子だとちょっと物足りないって思いませんか?

例えば家族へのお土産。
この前僕が広島に行ったときは帰りにやっぱりもみじ饅頭を買って帰りました。
うちの実家は普通のもみじ饅頭よりも、にしき堂さんの「生もみじ」が大好きなので、それを思い出して店頭で手に取りました。
例えば仕事先から帰る途中に買って帰るおまんじゅう。
遠くに行かなくても、帰りのスーパーで見かけた和菓子コーナーで、ちょっとおやつ代わりに家族に買って帰るおまんじゅう。誰かを思って買って帰ることに変わりはないですよね。
例えば自分へのご褒美。
今週仕事がんばったー!とかやっとプロジェクトの一山越えたー!みたいな時にちょっと自分を甘やかす時に使う高級ガトーショコラ。
どれも自分や、誰かを想って買ってくる特別な品。
「これを買って帰ったら旅の思い出話ができるな」
「どら焼きが好きな子だから喜ぶだろうな」
「これを食べて明日からまた頑張ろう」
そういう思いが特にこもる食材、それがお菓子なんだと思います。
そして僕たちはそういうお菓子をこれからも作っていきたいと考えています。
「いきなり団子を買って帰ったら熊本の思い出話が盛り上がるだろうな」
「焼きなり団子って新しい!新しもの好きのお母さんならよろこんでくれるかな」
「このスイートポテト、新しい!お昼休みに食べてみよ」
お菓子は作る人、売る人、買ってくれる人、買っていった人が渡した人と、その商品一つに関わる人がたくさんいます。
僕たちはお菓子を「コミュニケーション・ハブ」として再定義し、お客様に新しい価値を提供したいと考えています。
ハブ、というのは自転車の中心にある回転する部分のこと。ここから転じて色んなものの中心に存在する例としてよく使われるんです。

お菓子がコミュニケーションのハブになる?
焼きなり団子を買って頂いたお客様が誰かとそのお菓子を食べた時、
「焼きなり団子っていきなり団子を焼いたやつだと思ってたけど、実はこんな面白いエピソードが有るって店員さんがね……」

というお話をされた時に僕ら経営者と製造スタッフ、販売スタッフとお客様とそのお友達が一つにつながるんです。
これって一つのお菓子を通じてみんながつながってるってことになりませんか!?
そしてこれってちょっとすごいことだと思います。
もちろんお菓子は安全かつ美味しくなければなりません。でも、僕はそれ以上の価値がお菓子にあると考えています。
長寿庵のお菓子を通じて、私たち長寿庵とお客様が一つになる。そしてお客様と一緒になって長寿庵の形が作られていく。
僕が週に2回ほど書いているお客様の声「いきなり団子FAN VOICE!」はお客様が色んな方と一緒にいきなり団子を楽しんでいただいている様子がわかります。
そこには「長寿庵のいきなり団子」を中心としてお客様たちのコミュニケーションがやり取りされているということですね。
地元が熊本のお母様と一緒に食べられたいきなり団子、何十年も前に故郷を離れ、久しぶりに食べたいきなり団子、旅の思い出に買って帰って、思い出話に花が咲くいきなり団子……
それらすべてが、「長寿庵のいきなり団子」の新しい物語として輝きを放っています。
「ブランドはもはや一企業の手を離れ、顧客とともに作り上げていくものとなった」
って確かブランド論の大家が言っていたような気がします。
今僕はその場面に立ち会っているんだなぁ、という実感が強いのです。
そしてそれが嬉しくてしょうがありません。
だって僕たちが作った商品が、お客様のお手元で新しい物語を紡いでいるんです。
僕らの商品がなかったらその物語は生まれることはなかった。
これからもお客様の物語を紡ぐ、コミュニケーションのハブになれるような「お菓子」をお客様とともに作っていきたいと考えています。